民族と金

私が、骨組み許りのビルヂングの

作業場の前を通りかゝると、其處には今しがた何か異變でもあつたと見えて、夥しい人間が集まつて急しく動作してゐた。多分檢屍官でゞもあろう白い服を被た役人と巡査とを乘せたオートバイが、その前に止まると、今迄梁の上に上つてゐた黒い人影は、蜘蛛の子のやうに散つてしまつた。
 すると、鐵骨と鐵骨との間に架した横木の上に、一人の勞働者らしい人間が横たはつてゐる。往來の方へは蹠を向けてゐるので、その脛に捲きついた黒つぽい股引きの他は何も見る事は出來なかつた。
 群衆は、殘照に彩られたビルヂングを見上げながら、屍體の引き下ろされるのを待つてゐた。
「あの男は、獨り者なんですかい?」
「もう相當の年配らしいですよ。親も妻子もあるでせうがなあ」
「どういふもんでせうな斯んな場合は、會社の方から、幾分遺族の扶助料でも出すもんでせうかなあ‥‥‥」
「いゝやあ‥‥‥さういふ事は先ず絶對にないといつていゝでせうな、感電なんてかういふ場合は、大てい震死者それ自身の過失が多いですからね」
「よくよく運の惡い廻り合せです、もう三十分も無事なら、あの男は仕事をすませて、元氣な顏で彼處を降りて歸つていつたんですがな‥‥‥」
「實際ですよ。」
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by tribalmoney | 2005-11-07 16:36 | 不敗
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