民族と金

2005年 11月 15日 ( 1 )

鐵骨ばかりのビルヂングの

下で二人の男が上を見上げながら話してゐた。
「何てえ鈍間な野郎だッ、建築つて奴あ、一度ケチがつきやあがると、それからそれへと縁起が惡くつて、碌なこたありやあしね、危險なこたあ解り切つてるのに、餘ッ程、ドヂな野郎ぢやねえか‥‥‥」
「何でもふだんから俺あ、のろま[#「のろま」に傍点]な野郎だとおもつてた‥‥‥」
 詰襟の服にゲートルを捲いてる技師らしい男と、アルパカのもぢりみたいなものを、ふわりと上から羽織つた親方らしい男と、鉛色の蹠を見上げて怒罵を浴せてゐた。
 何時? 何處から? どうして? その足は歩きつゞけて來たゞろう。その足は、都會に幸福を求めていつた父の足だ、ブルジョアジイが噛んで吐き出すやうな食物を求める爲に、生涯の血と汗とを拂はなければならないあの父と子供の足だ!
 今に今にあの足は、ビルヂングの鐵骨の上から立ち上つて、何千何萬何億もの足と一緒に、全世界の軍隊よりも[#「よりも」は底本では「よ も」と欠字]歩調を合せて、一つの行進曲を奏するだろう。私の頭の上では、矢ッ張り激しく鋲締機が鳴り喚いてゐる。
 ……私は一體、睡つてゐるのか、覺めてゐるのか‥‥‥‥。
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by tribalmoney | 2005-11-15 16:38 | 腐敗